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しめじと花束


 その日はベースの早川の家に行くことになっていて、東中野から西武新宿線の中井駅まで山手通りをブラブラと徒歩で向かっていた。早川の家は所沢よりもずっと先にあって、さて所沢の先なんてあったのかと驚きつつ向かっていたわけだ。  
 早稲田通りを越えたあたりから山手通りはだらだらと下っていく案配になるが、かなり先の方におばさんの自転車が見えていた。優に100メートル以上はあったから、その方がおばさんであったと断定する根拠はない。もしかすると若いおねえさんだったかもしれないのだが、なんとなくおばさんっぽく見えるということはあるのだ。で、その下り坂の先を走る自転車というものはよく見えるというか、段差に引っかかったらしき自転車が大きく跳ねるのと、後の荷台から何かがポンと飛び出すのが見えた。声を出して注意しようにも遠過ぎて届くわけもない。  
 そうなると何が飛び出たのかが気になってくる。で、気が急いていくらか早足になりつつ、落下現場に到着すると、パックに入ったしめじが待っていた。そりゃあ、ま、しめじは軽いし、落ちるときもカサッと音を立てるぐらいで気付かないのも無理はない。それでなくても山手通り沿いの歩道だ。かなり重いものだって、ドサッとカサッの違いぐらいで大した差はないだろうし、そりゃ、ま、鍋ごと落としたのならカラカラカッチャーンと凄まじい音がしそうだけど、生憎パック入りのしめじ。さて、おばさんがしめじを探しに戻ってくるとも思えない。  
 買ってきたものをすぐチェックするおばさんでなくて、調理を始めてから気付く場合だってある。それで、しめじを持って途方に暮れる。いい案配に置く場所でもあれば、例えば塀のようなところがあればそれに乗っけてくるなんてことも考えたのだが、とりあえず先を急ぐものだから、しめじを持ったままそこそこ歩いてしまって、気が付くと中井駅のホームにいた。もちろん、しめじ片手に。で、早川の家に着くとかみさんに説明をした。これはかくかくしかじかの状況に於て自転車の荷台から飛び出してしまったかわいそうなヤツで、飛び出した瞬間から知っているから、ま、スーパーから直送されたようなもの。決して汚いものではありませんってな具合にだ。  
 それを食ってしまうか、捨てるかの判断は早川家に任せたわけだが、押し付けたといえないこともない。  

 で、一週間ほど前のことだ。散歩の途中、長い坂の中ほどで見つけたものは花束だった。ゴミに見えたが、切り口などを丁寧に包んだ袋の中は、いわゆる仏花、祭壇などに飾られる花だった。辺りを見渡して人がいるわけもなく、これも自転車の荷台などから落下したものに違いなかった。置き去りにするのも躊躇われ、どうしようと思案しつつ家に辿り着いた。  
 途中で「えーっと、ずいぶん使っていないような気がするが、花瓶などまだあったっけ」ってなことを考えていたから、ねこばばする気がなかったわけでもない。しかしながら、有効活用されて花の面目も立ったわけだから、めでたしめでたしでいいのだ。

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