☆☆☆

ろー眼


 サックスのリードをマウスピースのどの位置に合わせるかは人により様々だが、自分なりの調整というものがある。40代半ばのある日、その位置を決めるのに手間取ることに気付いた。ようするによく見えないのだ。最初は見えにくいなあってな感じだったが、もしやと思ったのは老眼だ。洒落たインテリア関連の店で、プラスティック製の折り畳み可能な簡易老眼鏡を見かけ試しに買ってみた。げっと驚くほど見えるようになった。そうか、老眼かと肩を落とすというものでもないが、確実に加齢していることを知った。それで眼鏡屋に赴きちゃんとした老眼鏡を作った。




 まだ40代だから頻繁に使うものでもなかったが、これで一安心てな案配だった。スタジオでの録音で譜面を読む際には使わなくてもすんだから、結局はリード合わせのために買ったようなものだった。後に複視の傾向が顕著になりスタジオ業務からは遠ざかることになったのだが、この時期は老年の新人というようなものだった。50代に入るとたいして使わないとは言え老眼鏡をポケットに忍ばせるようになった。そんなときに知り合ったのがヴァイオリンの尾花さんだった。「あれっ、老眼鏡使ってんの。ダメだよー。これは使えば使うほど進行しちゃうんだから。」「でもさ、見えにくいときってあるでしょ」「いや、見るの。根性で見るの。筋肉関連が衰えているわけだから見ようとするのよ。すると進行が止まるからさ。オレなんかさ、今でも使うことはないよ。少々暗くたって新聞でも読めるからさ。」へーっと驚いて仰せに従ってみた。
 今、この歳でも本を読むのに老眼鏡は使わないというか。そもそも持っていない。むかし作った老眼鏡はフレームも曲がり雑多なガラクタと一緒に引き出しの奥深く眠っている。彼の言ったことは正しかったに違いないのだ。しかし、さすがに薬の小さな瓶に書かれている成分表だとかは判読するのは容易ではない。人の体は加齢と共にあちこちが消耗してガタが来る。最も気をつけなきゃいけないのは血管だが、歯、目など小出しに症状が現れ、気が付くと正しいお爺さんお婆さんが出来上がるってことになっているらしい。

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