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泣くこと


 子供のころ、よく泣いた。人より弱虫だったからその分多く泣いたかもしれない。どうして泣いたのかと聞かれても、そんなことを覚えているはずもない。どうせ、どうでもいいくだらないことで泣いたに決まっている。親に叩かれて泣いたこともあったはずだが、あの場合は叩くという行為の理不尽さに対する腹いせもあって、泣くために泣いていたような気もする。  
 泣くということは、子供にとってある種の全身運動に違いない。体全体で振り絞って泣くことでストレスからも解放された。歳を取り、分別などというものに捕らわれ、あのような勢いで泣くことはなくなった。早い話が、大人というものは誰にも甘えることが出来なくなった子供のことを言う。  
 時々、あの頃のように何も気にせず大声で泣くことが出来ればどんなに爽快だろうかと思うことがある。ま、出来ないわけだが。  

 6歳の時に、家庭の事情で、九州からはるばる姫路の町に姉と移り住むことになった。父の姉の家に預けられた。決して大きい家ではなく、先方には高校生ぐらいの2人の兄弟までいた。預ける方も預かる方も、相当な決心があったことは間違いない。そのような大人の気配を感じれば、従う他に道はあるはずもなかった。遠く離れた親戚であって、それまでに会う機会などほとんどなかったわけだから、初対面の見知らぬ家族と生活を共にすることへの対処法など分かるはずもない。  
 気疲れもあったに違いないのだが、その夜僕は大声で泣いたらしい。本人は覚えていない。その日の周りの様子から、大変な事態になったことは確認できたが、その大変さをどう受け止めていいかも分からず、しかし、みんなの前で涙を流すなどということも憚られ、眠りに入ったとき、初めて自分を解放することが出来て泣いたらしい。大きな不安を抱えて夢の中で泣いているものだと思っていたら、本当に声が出ていたということだ。  
 こちらとしては鬱憤をぶちまけてセイセイしたということなんだが、たぶん伯母さんの家庭内ではこの上なく重苦しい空気が流れたであろうことは想像に難くない。  もう半世紀以上前の夜のことだ。

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