☆☆☆

頭を下げない人

 
 近ごろはあまり言われなくなったが、むかしは先輩方などに「おまえは世渡り下手ってかさ」などと盛んに言われた。世渡り上手って何よってなもので、その都度笑って誤魔化すしかなく、ま、要領が悪いと言われても聞き流すしかなかった。ある歌手と食事をした際には、もう一人の同席者への説教のあてつけとして「ほら、渕ヤンみたいにさ、誰にも頭下げずに生きている人ってのもさいるわけでさ、君もね」などと聞かされ、えっ、そんな風に見られていたのかと驚いた。  
 そりゃ、ま、何にも分からないというわけでもなく、薄々気が付いちゃいるのだけど、母親ゆずりのやせ我慢というか、妙に意固地な部分が時折首をもたげ、まとまる話もまとまらなくなる展開に向かう傾向はあるとの自覚はある。しかしだ、失うものがある我慢はいざ知らず、何かを得るための我慢など真っ平という性分が今さら変わることはあり得ない。    
 第一、世渡りなどといい、それは少々の批判的なニュアンスを含んでいるようだけど、あたしが聞いていて、コイツ何を調子のいいおべんちゃら言っちゃって、などと呆れていても、実のところそいつには大真面目な反応であって、お追従でも何でもなかったりする。えっ、マジかよ的に驚いてしまうのだが、そういう風にフツーの反応が調子のいいところに落ち着くってのは、ま、それも一つの、才能とは言わないかもしれないが、能力であることは間違いない。  
 そういった、規格がすでに適応できているものに敵うはずもない。

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