☆☆☆

3000曲



 こないだトランペットのロイ・ハーグローブが若くして亡くなったと聞いたばかりだが、今日は前田憲男さんが亡くなったと知らされた。ジャズ・ピアニスト、作編曲家と紹介されてはいるが、個人的には編曲家としての素晴らしさが強く印象に残っている。若いころ、品川のパシフィックホテルのバンドで演奏していたとき、たびたびドラマーの猪俣猛さんの奥様の歌手テリー水島さんがショーに出られた。譜面の中の曲のいくつかは前田さんのアレンジで、サウンドも新しいし演奏するのが本当に楽しかった。前田さんのアレンジ譜には専属の写譜屋さんがいて、その読みやすい譜とサウンドが他のものと比べるとグレードが違うなと感じていたものだ。スタジオミュージシャンとして活動するようになって、数少ないがご一緒する機会もあった。「ミュージックフェアー」とか「題名のない音楽会」とかいったテレビ収録が主だった。しかしながら実際にお会いするのは緊張もしたし、放つオーラが苦手な方でもあった。もちろんサウンドはいつもゴージャスでワクワクした。遠巻きにしつつ感心していたわけだ。
 直に指導を受けたわけではないが、人伝てに聞いた前田さんの言葉に大きく影響を受けたことがあった。それはアレンジャーになるためにはどうすればいいかというような質問に対しての返答だった。「3000曲コピー」と仰ったそうだ。根が単純なこちらとしては「ああ、そーかー」ってなものだった。聞いた次の日から実行に移した。コピーといってもメロディだけを採譜するわけではなく、サウンドの一部始終、ベースラインからドラムまですべて聞こえるものを書き留めるのだ。時間さえあれば朝から深夜までヘッドホンをして五線譜を埋めていった。取り憑かれたように続けた。曲はカントリー、オールディーズ、映画音楽、ロック、もうジャンルには一切構わず聞こえてくるものは拒まずといった体で続けた。半年ほど経って曲が200曲ほどに達したところで一段落させることにしたが、それはそれは勉強になった。普段漠然と聴いていたものが、細部を採譜して理解が深まると聞こえ方が違うようにも思えたのだ。それは自分で曲作りをするときに大いに役立つことにもなった。前田さんはアレンジをしていて分からない部分が出てくると奥様をレコード屋に走らせ、レコード試聴を電話口で聴かせてもらって疑問点を解決したというような逸話が残っている方だったから、曖昧な部分を許さない厳しさを貫かれたと思う。

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