☆☆☆

閉店


 ある日忽然と姿を消す飲食店というものがある。30年くらい前だったか渋谷にあったカレーの「ボルツ」は仲間内でも評判の店で、辛さが2倍とか3倍とか、果てには30倍というものもあった。どんな味だったかはっきりと覚えているものでもないが、ずいぶん経って訪れると無くなっていて本当にガッカリした。池袋の駅地下にあった立ち食いの店が集合する「すなっくらんど」も忽然と姿を消した。裏口付近に美味しいうどん屋があってお気に入りだった。店内にはラーメン、焼きそば、蕎麦、カレーなどなど手軽な食べ物の店が所狭しとひしめき合っていて、いつも盛況だった。ネットで検索するとイメージに最も近い写真が見つかったので転載。

 

 渋谷には「福ちゃん」という九州ラーメンの店があった。ここにもよく行った。麺は少し違ったけども、博多ラーメンとしては上出来の店で博多在住の頃の味を思い出させてくれた。ずいぶん前にNHKでの仕事があり、その日は帰りに福ちゃんラーメンに寄ることが大きな目的になっていた。行くときは歩く距離が近い代々木八幡からスタジオに向かった。さて、仕事が終わった帰り、口の中はすでにラーメンを期待しつつワクワクしていたわけだ。渋谷駅に向かう道を歩いていたのだが、いつの間にか福ちゃんを通り過ぎてしまったらしい。あわてて戻ってみたが、店がない。2度3度と繰り返して、やっと店が消えたことに気付くことになった。ガックリ肩を落とし、近辺のラーメン屋で何かを喰ったが、口の中の期待は見事に裏切られ肩を落としたままの帰宅となった。ま、食い物の恨みに近い。

 

 中野のブロードウェイ下の入り組んだ商店街の中にもお気に入りの中華屋「大門「があった。通路沿いにあるカウンターだけの店だ。ラーメン、炒飯などの中華も美味しかったが、ここでのお気に入りは「ショウガ焼き定食」だった。600円とお安かったしボリュームも満点。先日、久し振りに食べようってんで店に向かった。路地を曲がると店が見えてくるはずだが、どうも様子が違う。うどん屋になっていた。近所の店のおばあさんに訊いた。「あの中華屋は?」「秋ごろに閉めちゃったんですよお」「えっ、移転とかじゃなくて?」「いやいや、そのね、なんでもねご主人が鍋を振れなくなっちゃったとかでね」「あらまあ、好きだったのに・・・」



 この店は近所で働く人たちもよく来ていたし、残念に思っている人は大勢いらっしゃると思われる。時代が変わるとは言うけれど、そうやってある人材がリタイアすることで変わることを余儀なくされることもあるのだとシミジミとしたのだ。東中野のステーキハウス「ジェロニモ」が、親父さん亡き後娘さんに引き継がれたことは稀有な例に違いない。

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